コンフェクショナリー・コオロギ

パートナー

CRICKET ONE社

ベトナムのスタートアップ企業であるクリケットワンは2017年からコオロギを原料とした食品の開発を手がけています。国際規格の食品安全衛生マネジメントシステムの中でも認証の難易度が高いことで知られる、FSSC22000を世界で始めて取得した同社。今回はクリケットワンのCEO、Bicky Nguyenさんに商品開発の苦労や競合他社にはない強みなどについてお伺いしました。

まずは簡単に事業について教えてください。

「コオロギと消費者を近づける」というビジョンのもと、私たちはフードテック企業として新しい商品開発に多額の投資をしてきました。現在はホールコオロギだけでなく、コオロギミート、高たんぱくなコオロギパウダースーパーファインパウダーやプロテインまで幅広い商品を提供しています。

また、神戸大学と共同で、コオロギの栄養価を評価する研究プログラムも実施しています。この研究では、高齢者や回復期の患者を対象に、コオロギの栄養価がどのように作用するかを調査しています。研究が進めばコオロギの価値はより高まると信じています。

Bickyさんがコオロギビジネスに関わるようになった経緯を教えてください。

元々、クリケットワン共同創業者のNamdangとは他のビジネスをしていたんです。農業施設で使われるセンサーの製造をしていたのですが、「より環境に優しく、持続可能なビジネスは何か」と日ごろから議論していました。そんな時、たまたまローカルレストランでコオロギを食べる機会を得たんです。初めて食べたコオロギがきっかけで私たちはリサーチを開始することに。

食物市場は今後タンパク質が不足する。それ以外にも私たちは重要なポイントに気がつきました。それは、コオロギの生産をしている企業の多くが北米またはヨーロッパの企業であるということです。

本来、欧米諸国はコオロギが生息するには適した環境とは言えません。コオロギに適した環境を人工的に作り出すために、莫大なエネルギーと多額の資金を消費しているのです。熱帯気候のベトナムであれば、環境負荷が少なく、持続可能な方法でコオロギを生産できる。私たちが探し求めていた答えはコオロギにあるのではないかと思い、2016年に前事業を売却し、本格的にコオロギ事業をスタートさせました。

身近な食材を再現し、新しい味に仕上げたコオロギミート

さまざまな製品を販売していますが、その中でもコオロギミートは珍しく、開発している 他の企業はまだ少ないですよね。どのようにしてコオロギミートが開発されたのですか?

市場調査を重ねていく中で、豊富な商品ラインナップが求められているとわかりました。そこで何にでも応用が利くコオロギパウダーに注目しましたが、コオロギのパウダーだけでは噛みごたえがなく、シンプルすぎると感じたんです。

消費者が、より食べやすく、より身近な食べ物という観点から肉にたどり着きました。しかしコオロギだけでは肉の風味を十分に出すことができませんでした。よりリアルな肉の食感や味を再現するため、豆のプロテインとコオロギを組み合わせ、ハイブリット製品を作り出しました。さらに硬さの要因となるコオロギの外骨格を取り除いて、なめらかなテクスチャを再現しました。

私たちのコオロギミートを食べていただくと、口に含んだ感覚はまさに肉と同じと感じるでしょう。しかし、私たちは牛肉や鶏肉の味を模倣するのではなく、コオロギミート独自の味にしたいのです。新しい食品として市場に出し、食品会社や消費者がコオロギミートに合う調味料で自由に味付けしてくれたら嬉しいです。

コオロギミートであれば抵抗感なく食べられそうな気がします。

そうですね。消費者のコオロギへの抵抗感をなくすこと、肉と同じくらいコオロギを身近な食品にすることが私たちの使命だと思っています。

環境負荷の観点からも肉の摂取量を減らすことは大切ですが、強制的ではなく、自らの意志で食べるものを決定していってほしいと思っています。そのためにも肉を食べたときの楽しみは損なわれず、タンパク質を摂取できるよう、コオロギミートは今も改良を続けています。

クリケットワンが誇る強み

コオロギミート以外で他社にはない強みは何ですか?

自社の強みは主に3つあると思っています。

➀テクノロジーへの投資額
②5つの特許
③圧倒的なクオリティ


【➀テクノロジーへの投資額】
私たちは単なるコオロギ製造業者ではなく、フードテック企業として自らを位置付けています。新しい製品の開発や改善のための技術に多額の投資をしています。投資してきたことで私たちは他の企業より多くの製品仕様を持つようになりました。

適切な製品仕様を持っていれば、さまざまな種類の製品開発が可能になります。たとえば野菜由来の細粉(vegetable flour)、超微粉末(super fine powder)と呼ばれる非常に小さなサイズ(70マイクロン程度)の粉末があります。それらの製品仕様を正確に理解しているので、最適な製品を作ることができているのです。私たちの成分を試して他社から製品を切り替える企業も出てきたほどなんですよ。

【②5つの特許】
私たちには5つの特許があり、すべての特許は農業の自動化、収穫の自動化、コオロギの行動を理解するための自動化に関連しています。私たちの農場は半自動化しているからこそ、ミスが少なく製造コストも大幅に削減できています。

【③圧倒的なクオリティ】
私たちの製品は非常に競争力のある価格で市場に出ていますが、品質は最高レベルです。
施設全体を見てもらえれば、圧倒的な環境管理に驚くと思います。アジアで唯一FSSC22000を取得しており、衛生面はもちろん、高品質の維持を徹底しています。EUの新聞を読んだり、EUの規制を調べたりすると、私たちだけがこのような高タンパクな製品を取り扱っていると明記されています。これらはクリケットワン商品の品質を証明する証です。

 

FSSC22000は取得が非常に困難なことで知られていますよね。 取得する際、どんなことに苦労しましたか?

プロトコル作成とトレーニングにはとても苦労しました。厳格な規定に従うためのプロトコルを作らなくてはいけない。そのため主要な従業員全員がトレーニングを受け、実際プロトコル完成には6ヶ月かかりました。さらにプロトコルに沿った運営を実行するトレーニングには9ヶ月もの時間を要しました。

今でも従業員に安全意識を高めるための情報を提供して、「なぜ大事なのか」本質を理解してもらうよう心がけています。

また、「製品がいつ、どこで、誰によって生産・出荷されたのか」を追跡可能にし、文章で記録する作業には人的資源を要します。出荷されるすべての製品には、品質基準や仕様が確認できる証明書が必要であり、常に追跡可能な状態にしておかなくてはいけないのです。

結果として、FSSC22000の取得はとても苦労しましたが、その努力は安全で高品質な製品を提供するための基盤を築くために重要な役割を果たしたと思っています。

自動化の話もありましたが、品質を安定させるために 工夫していることをお聞かせいただけますか?

コオロギのエサは台湾の飼料会社でOEM生産しています。
彼らは私たちが所有するレシピの配合比率を厳格に守り、高品質な飼料を再現しています。

餌の調合を含む収穫までのプロセスは半自動化されており、品質の問題があれば迅速に除外することができます。そのため、養殖後の加工処理の段階では、品質に関する問題がほとんど発生しません。

私たちの技術を活用することで、不合格と判定され除外されるコオロギはわずか約1%程度に抑えられます。除外されたコオロギも廃棄するのではなく、隣接する魚の養殖場や有機鶏の養鶏場に供給されています。

効率化されているんですね。

その通りです。効率化はまさに重要なポイントだと思っているんです。コオロギは価格が下がらず、消費者が手に取りにくいという課題も抱えています。生産量を増やすことができれば価格は下がり、コオロギはより一般化していくでしょう。

テック企業として最先端技術を開発し、効率化を推し進めることで今まで以上に生産量を増やしていきます。

最後に「今後MNHに期待すること」と日本市場へのメッセージをお願いします。

その通りですMNHとは単なるビジネスの関係だけでなく、人々の意識を変えるような啓蒙活動を一緒にしていきたいと思っています。

MNHが取り組んでいる、若い世代に焦点を当てたアプローチはとても素晴らしいですし、私たちが持つ教育プログラムに関連する情報やデータは喜んで共有したいです。

また、コオロギの摂取が健康に良い影響を与えることを、証明するための臨床データを増やす必要もあると考えています。ぜひMNHにも積極的に参画してもらい研究を進めていきたいですね。そのデータを元にまた魅力的な商品を開発していき、一緒に啓蒙活動をしていきましょう。

日本の皆さん、コオロギ製品は食べやすいように日々進化しています。何を食べるかは一人ひとりの自由ですが、より効率よく健康的な食事を心がけている人はぜひコオロギも試してみてください。鶏肉や魚と同じような感覚で食べていただけると思いますよ!
。効率化はまさに重要なポイントだと思っているんです。コオロギは価格が下がらず、消費者が手に取りにくいという課題も抱えています。生産量を増やすことができれば価格は下がり、コオロギはより一般化していくでしょう。

テック企業として最先端技術を開発し、効率化を推し進めることで今まで以上に生産量を増やしていきます。

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